事業開発見習い日記

東京でBDやってる人の日記

モラルのステップ

事業開発のような、非常に経営に近く、あいまいで、かつたくさんの要素がある意思決定を求められる部門では、とにかくモラル(倫理観、道徳性)が意思決定に大きな影響を及ぼす。基本的な能力だけではチームビルディングができないし、どの段階にいるかですっかり結論が変わってしまう。

このあたりのことをもやもやしている時に読んだ組織行動論の本、組織行動のマネジメントにヒントになる概念が書いてあったので紹介したい。*1

書かれているのは、人は社内で昇進をするに従って、モラル(倫理感, 道徳性)のステップを刻んでいく、ということである。本はずいぶん抽象的に書いてあるので、ざっくり言い換えて書く。会社員には6つのステップがあるらしい。

  1. 「怒られるのを避けるためにルールを守る。」これは研修中の新人とかの段階である。怒られたくないから遅刻をしない、というステージ。
  2. 「直接自分の利益になるように行動する。」これはメンバーに多い段階。自分の仕事は終わったんだから早く帰りたい。経費は許されている限り使い込まなければ損だ、と思う。
  3. 「上司や同僚に好かれるような行動を取る。」ここでは、XXさんがこう思っているからこうした、という指示待ち、もしくは同調で動くステージ。メンバーから係長課長くらいまで存在する。自分の意志はほぼ考慮していない。
  4. 「決められたものを維持するための行動を取る。」組織で一度決められたルールに厳格で、その通りに運用する。もしくは、与えられた目標を忠実に守り、評価基準に正直に動く。しかし、その結果悪いことが起こっても、特に責任は感じない。俺は正しい、俺は達成した、と主張できる。メンバーから部長、本部長くらいまで存在する。
  5. 「多数派の意見に関係なく、正しいと思うことをする」決められたことであっても組織のルールや目標がおかしいと思ったら、意義を申し立て、変える努力をする。それは自分の利益不利益に関係なく行う。ふつう、上級管理職や取締役などで、事業を管理する役割からこの観点を学ぶ。
  6. 「仮に現行法に触れたとしても自分が正しいと信じるものに従う」業界を引っ張る会社の社長や、起業家が持つ観点。今ならUberやAirBnBなんか良い例だろう。より良い世界を信じて法律と戦っている。"Change the World"の価値観である。オープンソースの概念もこれだ。一見いち企業に不利なこともやってのける。Teslaの技術特許開放はこれにあたる。

また、合わせて

  • ステップバイステップでしか上がっていかない。突然飛び越えることはない。
  • 普通の大人は4番でとまる。

と書かれている。

で、ここからは自分が感じたことだが、

(職級にしたがって上がると考えれば)普通の管理職は4〜5番だし、本部長役員は5番だし、社長は5番以上が要求されているのかもしれないが、事業開発をする人間については、ヒラから役員まで全員少なくとも5番目でないと成り立たないんじゃないか、ということである。理由はたくさんある。

  • 与えられた目標はないし、与えられても間違っている可能性も小さくない。
  • 経営目標のXXだけできれば、XXの観点は考慮しなくていい、というサボり方が基本的にできない。これをやるとたいていブーメランで帰ってくるため、時間の無駄。
  • 1ミリでも自己の出世を考えてサラリーマンが提案したものは、他社の正しい提案にまず負ける。さくっと短期で自分の成果になるものと、会社がやるべき重要投資案件がピッタリ合うことは基本的にあり得ない。
  • 自分に加え、上司や同僚の意思決定も間違っていることが日常で、その状況で伝書鳩になると関係者をよけい混乱させる。
  • 事業開発担当が面会するのは基本的に6番の経営者や起業家であり、少なくともその概念を心から理解できなければいけない(事業開発は最も経営者に会う職業の一つ)
  • 6番の考え方に慣れ親しんだ事業開発メンバーを相手にするには、少なくとも5番以上の倫理観はないとチームの求心力を保てない。最悪のケースは、幻滅してやめてしまうことすらある。(市場価値が高い人が多いため離職リスクは元々高い)

 

ちなみにこのモラルのステップは、仕事の能力とは関係がない。職位が高ければ経験も多く積んでいるし、たぶんモラルも高くなるが、結果論であって、本質的には関連しない。

チームビルディングが苦手でも非常に高い倫理観を持って正解を見つけようとしてる人はいるし、逆にわからないなら「わからない」と正直に答えることが、事業開発においては近道だったり評価されたりする。

ちなみに、一向になんの努力もしないで6番になってる人は「地獄のミサワ」と呼ぶ。

 

 

Amazon.co.jp: 【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ: スティーブン P.ロビンス, 髙木 晴夫: 本

 

*1:※ちなみにこの本はたくさんのアイディアが乗っててよいのだが、漢字が多くて抽象的なままずっと続くので、本気の人しかおすすめしないw